「この調理法だとクレイイールが信じられないほど美味しくなったが、このままだと味が無さすぎるな。次は塩を振って焼いてみるか?」
クレイイールってお魚、焼いただけでおいしくできちゃったでしょ?
だからノートンさんは、これでお料理は終わったって思ったみたいで、次はお塩をかけて焼いてみる? って聞いてきたんだよね。
「あっ、待って。まだやんなやダメな事があるんだ」
でもさ、おいしくはなったけどやっぱり何となくウナギっぽい味がする気がするんだよね。
だったらさ、もしかするとウナギとおんなじお料理の仕方をしたらもっとおいしくなっちゃうかもしれないもん。
だから僕、このままお料理を続けようって思ったんだ。
「やらないといけない事? 今のままでもかなりよくできてると思うんだけど、ここからまだ何か手を加えるのかい?」
「うん。あのね、焼いて脂を落としちゃったから、ちょっと硬くなっちゃでしょ? だから今度は蒸して柔らかく使用って思うんだ」
炭で焼いたクレイイールはね、香ばしくっておいしいんだけどちょっとカリカリした食感なんだよね。
もしかしたらこれにたれを付けながら焼いてったら前の世界のウナギとおんなじになるかもしれないけど、もしかしたらもっとカリカリになっちゃうかもしれないもん。
だから僕が知ってるお料理の通り、この焼いたやつを蒸そうって思ったんだ。
でもね、それを聞いたノートンさんは何でか知らないけど急に変なお顔になっちゃったんだよね。
「どうしたの? ノートンさん」
「えっと……ルディーン君。その”むす”っていうのは何だい? 新しい調理法なのかな?」
これを聞いた僕はすっごくびっくりしたんだよ。
だってノートンさんはロルフさんちの料理長をするくらいすごい人なのに、蒸すっていう料理法を知らないって言うんだもん。
でもね、それを聞いた後にお部屋の中を見渡してみると、フライパンとかが吊ってあるとこは当たり前として、お鍋とかが並んでる棚のとこにも蒸し器になりそうな調理道具が無かったもんだから、もしかしたら蒸し料理自体が無いのかも? って気が付いたんだ。
「そういえば蒸し料理って、あんまり作んないもんなぁ」
前の世界でもね、蒸して作るお料理ってあんまりなくってお店でしか食べた事無かったんだよね。
それにね、前の世界の僕んちには、蒸し器なんてなかったもん。
って事は、あんまりやらない料理法って事でしょ?
だからこの世界になくったって、もしかしたら全然おかしくないかもしれないんだよね。
「あ〜、何やら考え込んでいるところ悪いんだが、そのむすっていうものがどんな料理なのか、そろそろ教えてもらえないかな?」
僕がそんな事を考えてたらね、ノートンさんがもう一回蒸すって何? って聞いた来たんだよ。
だからすぐにごめんなさいして、教えてあげたんだ。
「お湯を沸かすと湯気が出るでしょ? 蒸すっていうのはね、オーブンみたいにあっつくなったその湯気でするお料理法なんだ」
「熱せられた蒸気でだけで火を入れるのか?」
普通のお料理はね、あっつくした鉄板で焼いたり、ぐつぐついってるお湯でゆでたりして作るでしょ?
そういうとこにもし手を突っ込んだらやけどしちゃうけど、例えば湯気が出てるお鍋の上に手をかざしてもあっついなぁって思う事はあるけどやけどなんてしないもん。
だからなのか、ノートンさんは僕のお話を聞いてもホントにそんな事できるのかなぁ? ってお顔をしてるんだよね。
「あっ、そうだ! ノートンさん。お鍋の蓋をとった時って、すっごくあっつい湯気が出てくるでしょ? あれくらい扱ったらお料理できると思わない?」
「ん? ああそういえば確かに、蓋の中に閉じ込められている湯気はかなりの温度があるな」
「でしょ? この蒸すっていうのはね、お湯と蓋の間に網を置いて、その閉じ込めたあっつい湯気でするお料理なんだ」
でもさ、蓋の中にある湯気のお話を聞いたら、ノートンさんも解ってくれたみたい。
それだったら、確かにお料理できるくらいあっつくなってるねって解ったくれたんだ。
でもね、今度はまた別の事が気になったみたいなんだよね。
「熱い蒸気の中で火を入れるって事は全体にまんべんなく火を入れるって事なんだろうが、それなら別にオーブンでもいいんじゃないか? それにだ、蒸気の中に置いたりしたら水滴で折角の料理がダメになったりはしないのかい?」
ノートンさんはね、湯気の中でお料理なんかしたらベタベタになっちゃうんじゃないの? って心配してるみたいなんだよね。
でもさ、蒸し料理って多分それをするための料理法なんじゃないかなぁって思うんだよね。
「だから最初に言ったでしょ? 焼いて硬くなったから蒸して柔らかくするって。蒸すとね、湯気がいっぱいかかるから、中に入れたものがふわぁってなるんだよ」
「なるほど。むすというのは、水分を補う料理法なのか」
ノートンさんはね、僕のお話を聞いて、むすって料理法がどんなのか解ってくれたみたい。
「油の少ない鳥なんかは、あらかじめ砂糖を溶かした水をもみ込んでから焼いたりするからな。それを一つの工程でやると言う訳か」
「それにね、ずっと前にレーア姉ちゃんと作った事あるんだけど、卵とお砂糖、それに振るったお麦粉を蒸した作ったパンはとってもふわふわでおいしいんだよ」
僕はね、までベーキングパウダーもどきを見つける前に作った蒸しパンの事をノートンさんにお話してあげたんだ。
そしたらさ、パンケーキ以外にもオーブンを使わなくても作れるパンがあるのかってすっごくびっくりしたんだよね。
「それはどうやって作るのか、教えてもらえないか?」
「いいけど、今から作るの?」
「ああ。場合によっては、旦那様に報告しないといけないかもしれないからな」
ノートンさん、クレイイールの事なんかすっかり忘れちゃってるみたいで、蒸しパンを作りたいって言い出しちゃったんだよね。
でもまぁ、僕も久しぶりに食べてみたかったし、クレイイールを蒸すのにはどうせ蒸し器を作んないとダメだから先に蒸しパンを作ってもいいかなって。
「それじゃあ、作り方を教えるから、生地作っといて。僕は蒸し器、作っちゃうから」
前にレーア姉ちゃんと作った時の生地を教えてあげると、ノートンさんはさっそくそれを作り始めたんだよね。
だから僕は蒸し器を作る事に。
とは言っても、ここにはいろんな大きさのお鍋があるし、その中に入れる焼き網も何種類かあるんだよね。
だから適当な大きさの蓋つきの鍋の中にクリエイト魔法で作った土台を入れて、そこにすっぽりと入る焼き網を入れたら完成だ。
「ルディーン君、生地ができたぞ。それで、これをどうするんだ」
そしたらノートンさんが生地ができたよって言ったもんだから、僕、すっごくびっくりしたんだよね。
だってさ、レーア姉ちゃんと一緒に作った時は魔道泡だて器を使ったのに、卵を泡立てるのにもっと時間がかかったんだもん。
「ノートンさん、もうできたの?」
「ああ。卵を泡立てるのは、ビネガーソース作りで慣れてるからな」
そういえばノートンさん、フォークだけでもマヨネーズが作れちゃうんだっけ。
ここには細い木を束ねた泡だて器っぽいものもあるし、ノートンさんだったらそれくらい簡単にできちゃってもおかしくないか。
そう思った僕は、今作ったばっかりの蒸し器をノートンさんに渡して、中にお水を入れてから火にかけてもらったんだ。
でね、お湯が沸くまでの間に作ってもらった生地を銅製のちっちゃな浅い入れもんに入れてったんだ。
「ノートンさん。これを蒸し器の中に入れて、それが終わったらお鍋にこの布をかけて」
「布をかけるのか?」
「うん。これ、蒸し器用のお鍋じゃないから、そうしないと蓋からお水がぽたぽた蒸しパンの上に落っこちちゃうもん」
木で編んだ蓋だったらそんな心配しなくってもいいけど、このお鍋の蓋は金属製だもん。
このまんま上にのっけたらお水がたれちゃうから布をかけないとダメなんだ。
でね、その上に長い鉄串を二本乗せてから蓋をして20分ほど。
「うん、やっぱりおいしい」
「これはまた……普通のパンとは違い凄くしっとりしていて、その上信じられないほどふかふかだ。まさかこんなパンが存在したとは」
僕は出来上がったばっかりでほっかほかの蒸しパンを頬張って、クレイイールの事なんてすっかり忘れちゃうくらいすっごく幸せな気分になったんだ。
38.5話以来の蒸しパン登場です。
そういえばこれも、オーブンなしで作れるパンなんですよね。
子供のおやつにできるくらい簡単に作れる(魔道or電動泡だて器があれば)し、その上その味はパンケーキともスポンジケーキとも違う特別なものですから、ノートンさんが驚くのも無理はありません。
因みにですが、卵を全卵ではなく白身と黄身を分けてメレンゲを作り、それに牛乳と油を混ぜると台湾カステラになるそうな。
元のレシピよりもはるかに美味しくなるけど、あの話を書いたころはそんなもの、無かったからなぁw